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モチベーション②

 私の地元鳥取県で大きな地震が発生したとのニュースを見ました。被害はそれほど大きくないとの事で安心しました。

 

 オリエンテーション期間中の「Organizational Behavior」という授業の中で扱ったモチベーションというテーマが興味深かったので、教授が勧めていた本を1冊読んでみました。この分野についてもう少し知識を深めておく必要が有ると感じたからです。

 

 

Why We Do What We Do: Understanding Self-Motivation

Why We Do What We Do: Understanding Self-Motivation

 

  この著者はアメリカロチェスター大学の教授で、モチベーションについて研究している心理学者です。モチベーションを「intrinsic」と「extrinsic」の2つに分類し、どちらのモチベーションが個人のパフォーマンスの向上に効果的か、様々な実験を通して実証しています。

 こちら、和訳の本も出ています。

 

人を伸ばす力―内発と自律のすすめ

人を伸ばす力―内発と自律のすすめ

 

  彼の実験については、以前紹介したダニエル・ピンクの本にも多数引用されていますし、UCLAアンダーソンの授業のテキストにもデシの考えが出てきました。

 

 

 モチベーションは会社という組織の中のみならず、教育・子育て・スポーツと、あらゆる場において重要です。組織の上に立つ者のみが知っていればよいというものではありません。勉強に対する意欲が低い生徒達をどのように変えるか。選手たちがより積極的に練習に取り組むにはどのような仕組みが必要か。絶対的な正解があるとは思いませんが、モチベーションについて知ることで少なくとも異なる視点から問題に取り組むことが出来るようになると思います。

 

 

【目次】

①そもそもモチベーションとは

②モチベーションはパフォーマンスにどう影響するのか

③効果的なモチベーションに必要な要素

④いかにして理想的なモチベーションに基づいた行動を促進するか

⑤結論

 

①そもそもモチベーションとは

【Motivation】

  1. the reason or reasons one has for acting or behaving in a particular way
  2. the genaral desire or willing of someone to do something

 

 つまり、モチベーションというのは、何か行動するときの根拠となるもの、理由(動機)のことです。とすると、モチベーションが高い低いという表現はあまり正確では無い、と思います。行動を起こす動機は必ずあって、重要なのはそれがどのような類のものかという事ですね。

 

 先述の通り、デシはモチベーションを2つに分類しています。一つは「intrinsic motivation」と呼ばれる、ある対象への強い個人的関心が行動の動機となるというものです。かれは、人間には本来、”新しいこと、やりがい、能力向上、探求と学習”を求める傾向が備わっていると主張しています。

 もう一つは「extrinsic motivation」で、こちらは金銭や褒賞、昇進といった報酬と処罰によって動機付けしようとするものです。これは学校や企業といった多くの組織の中で取り入れられている方法です。

 

 一方のダニエル・ピンクは、モチベーションをコンピューターのOSに例えて以下のように分類しています。

 

モチベーション1.0:睡眠、食事といった生き残る為の動機。

モチベーション2.0:信賞必罰に基づく、外部から与えられた動機付け。アメとムチ。

モチベーション3.0:自分の内面から湧き上がる、やる気に基づく動機。

 

 extrinsic motivation=モチベーション2.0、intrinsic motivation=モチベーション3.0ですね。同じものなので、今後はモチベーション2.0、モチベーション3.0に統一します。

 

 

 非常に簡潔な言葉で言い換えるなら、モチベーション2.0に基づく行動は誰かに”やらされる”事、モチベーション3.0に基づく行動は自ら”やりたい”と思ってやる事かなと思います。

 近代はモチベーション2.0、いわゆるアメとムチの方法によって発展してきたと著者たちは語ります。しかしながら、このアメとムチのシステムには欠陥があり、今後は新たなシステムで動かしていかなければならないのです。

 具体的には、アメとムチの欠点として、

  • モチベーション3.0を失わせる
  • 成果が下がる
  • 創造性を低下させる
  • 好ましい言動への意欲の低下を招く
  • ごまかしや近道、倫理に反する行為を助長する
  • 依存性がある
  • 短絡的思考を助長する

 事が挙げられます。

 人間が望ましいパフォーマンスを上げる為には、モチベーション3.0が必要です。モチベーション3.0の方が、持続的で創造的な行動を生み出すのです。

 

 

②モチベーションはパフォーマンスにどう影響するのか

 

 人々のパフォーマンスの向上の為には、人々がモチベーション3.0に基づいて行動する必要が有ると両者は述べています。そして、この主張はデシの実験によって裏付けられています。

 目に留まったものをいくつか。

 

 

  とある実験の参加者達が、形が異なるブロックを組み合わせて見本通りの図形を3つ完成させるパズルを解くように指示されます。2つ目の図形が完成した段階で8分間の休憩時間が与えられるのですが、この休憩時間に被験者たちがどのような行動を取るのか、これを観察するのが実験の目的です。

 

1日目

 グループA:報酬無し

 グループB:報酬無し

 

2日目

 グループA:報酬有り

 グループB:報酬無し

 

3日目

 グループA:報酬無し

 グループB:報酬無し

 

 1日目はともに報酬無しなので、休憩時間の行動に大きな差は見られません。両グループともに平均して3分半から4分ほどパズルに取り組んでいて、皆少なからずこのパズルに興味を抱いていることが伺えます。

 2日目は、グループAは図を一つ完成させる毎にお金が貰えるので、パズルに俄然興味を抱き休憩時間も熱心に取り組みます。彼らは平均して5分以上もパズルに取り組んでいました。

 面白いのは3日目で、グループBは1日目、2日目よりも長い時間パズルに取り組んでいたのに対して、グループAの被験者たちの取り組む時間は2日目よりも2分、1日目と比べても1分ほど短かったのです。

 この実験は、先述のモチベーション2.0の欠点をよく表していると思います。モチベーション2.0によって一時のパフォーマンスは上がる一方、この刺激が被験者たちのパズルに対する興味を失わせています。また、モチベーション2.0は依存性があるので、いったん刺激を取り去ると、パフォーマンスは以前よりも下がります。

 

 

  もう一つデシの本の中で出てきたのは、ピアノを習っている女の子の話です。この女の子はピアノ教室に通っていて、非常に熱心に練習に取り組んでいました。失敗した箇所があると、上手く弾けるようになるまで何時間もピアノと向き合いました。つまり、モチベーション3.0に基づいて行動している状態です。

 ある時、ピアノ教室の先生が生徒たちがもっと練習に熱心に取り組むようにと、あるシステムを導入します。一定時間練習したら、それに応じてスターをプレゼントしようという単純なものです。沢山練習して沢山スターを集めようと呼びかけます。すると、生徒たちはもらったスターの数を競うようになります。これは見事なモチベーション2.0ですね。

 このシステムが導入された後、女の子の態度に変化が現れます。これまで同様熱心に練習には取り組むのですが、失敗した箇所があってもこれまでのように何度も練習して上手く弾けるようにしようとはしません。それよりも、決められた時間練習し続けることに固執してしまい、ピアノそのものへの興味が薄れてしまっているんですね。目的が、ピアノを上手く弾くことからスターを集めることに変わってしまったのです。

 最終的に、女の子のお父さんが「たとえ先生からスターが貰えなくても、お父さんが挙げるからそんな事には拘らなくていい」と言って、ピアノへの興味を取り戻したようです。

 この事例は、モチベーション2.0が抱える欠点を見事に表しています。

 

 

③効果的なモチベーションに必要な要素

 モチベーション3.0の重要な要素として、ダニエル・ピンクは自律・熟達・目的の3つを挙げています。私は自立が最も重要なキーワードではないかと思います。

 

 自律というとなんだか分かったような分からないような感じですが、要するに自分で自分の行動を決定したいという欲求です。デシは、人間は誰しも自分で物事を決定したいという欲求を持っていると主張します。そして自律に基づいた行動をしている時、物事へのの積極的な関与が実現されるのです。 

 自律の対極にあるのが統制(コントロール)で、モチベーション2.0の考え方は統制に基づいています。人間は本来受動的で自力では行動できない。だから報酬や罰で行動を後押ししてやらなければならない。更に、実際に行動し始めたらしっかりとした信頼できる指針を与えてやらなければ、彼らは誤った方向に進んでしまう。こうして人間をコントロールすることで、正しい行動をするよう促すのです。決められたルールの中で、従順な態度を取ることを要求するのです。

 デシやダニエル・ピンクは、人間は本来好奇心に満ちて自発的であると主張しています。そして、この態度は何かしらの理由で失われてしまうとしています。これは好奇心旺盛な子供たちが、いつの頃からか消極的、受け身な態度を取るようになるという印象と一致します。周りの環境が、本来望ましい態度を閉じ込めてしまうのです。

 ところで、自律と独立は似ているようですが、全く異なるものです。独立とは、他人からの精神的・物理的援助を求めずに1人で取り組むことを指します。一方で自律は自身の意思と決定によって、自由に行動するという事です。ですから、独立かつ自律している状態もありますし、独立かつ統制されている状態もありうるわけです。

 

 熟達とは、要するに自分の能力を上達させたいという欲求です。これは自立に重なる部分もあるなと感じるのですが、自律に基づいた積極的な関与が物事への熱心な取り組みを促し、最終的に熟達へとつながる感じでしょうか。

 目的は、自分よりも大きな何かの一部になりたいという切望であると説明されています。より大きな成果をあげる人は、自らの欲求を自分以外のより大きな目的に結び付けているようです。なんとなく、これは意義につながる考え方かと思いました。世の中の仕組みを変えたいとか、人々の生活を便利なものに変えたいとか、そういった大義に基づいて行動している時、人は自分以外の大きな目的に結び付いていると思います。

 

 

④いかにして理想的なモチベーションに基づいた行動を促進するか

 デシは、モチベーション3.0を実現する為には周囲の環境がとても重要だと語っています。私が個人的に最も重要だと思ったのは、周囲の人間が自律を促す態度を取ることです。先ほども述べましたが、自律の反対は統制です。統制によって他者の行動を促す場合、それは意図しない結果を生むことになります。

 

 デシの本の中で、拒食症と闘う患者の話が出てきます。彼女ははじめコントロールに基づいた治療を受けます。医師から指示に従わなければさらに厳しい治療法に変える事になると言われるのですが、この治療法は彼女の意思とは関係なく決められたので、彼女は従うことが出来ません。忠告通りさらに厳しい治療法に従うことになるのですが、これも彼女の自律を無視したものなので、やはりうまくいかず、彼女の症状は悪化してしまいます。

 そこで、彼女は違う医師に相談しました。この医師は彼女の事を良く知ろうというところからスタートします。どうして食べ物が食べられないのか、どうしたら症状をよくすることが出来ると思うか、彼女の考えをとことん聞いたうえで、彼女の考えを尊重した治療法を提案しました。この場合、彼女は自らの意思でこの治療法を選んだという気持ちになり、より積極的に拒食症の克服に取り組むことが出来たという事です。

 

 宿題をしなかったら叱る、目標を達成できなかったらボーナスを減額する・・・こういったものはコントロールに基づいたやり方です。そうではなく、彼らの自律を促す。そうすることでより持続的なやる気を引き出すことが出来るのです。

 

⑤結論

 私自身がモチベーション3.0に基づいて行動していない限り、他者にモチベーション3.0に基づいて行動させることは不可能だと思います。モチベーション2.0に基づいて行動している人間が、「オレは外部からの刺激によってやらされているだけだが、君たちには自身の欲求に従って自由に行動してもらいたい」と言ったところで、何言ってんだこいつで終わってしまいます。

 だから、自分の現在の行動の原動力は何か、自分は何かをやらされているのか?それとも大義のもとに自ら進んでやっているのか?という事を自問してみるといいと思います。もしも自分がモチベーション2.0に基づいて行動しているのなら、それは何かを変えるサインかも知れません。

 

 また、他者のパフォーマンスに不満がある場合、自分のマネジメントのあり方を振り返ってみるのも必要だと思います。この部下はやる気がない、この生徒は学習意欲がない、この選手は向上心がない、そうやって原因が他社にあると考えるのは都合が良いです。自分を正当化することが出来ますし。

 でも、本当にそうでしょうか?本当は自分に原因がある、だから他者のパフォーマンスが上がらないのではないでしょうか?

 マネジメントについて大した勉強もせずに、只々他人を責める。これほど馬鹿げたことは無いと思います。こういう立場に立つのなら、それなりに準備をしろよ、と。

 

 モチベーション2.0の最大の欠点は、創造性を低下させることだと思います。日本が急激に発展した時代、日本には明確な目標がありました。欧米のような豊かな生活を手に入たい、その為に経済を発展させ、モノを手に入れる。明確な答えがあって、それに向かってひた走る、そのような環境の中ではモチベーション2.0も有効に働いたのでしょう。

 しかしながら、今の日本にはお手本がありません。どういった国にしたいのか、自分たちの頭で答えをひねり出さないといけないのです。答えをひねり出す、その為には創造性が不可欠です。少しでも多くの人がモチベーション3.0に基づいて行動する、そんな環境を作ることが第一です。やる気に溢れた、想像力豊かな人達の中から今の日本に必要な答えを見つけ出す人間が現れる、そう信じています。

 

 いろいろと述べましたが、モチベーション3.0は必ずしも正解ではないと思います。有名な音楽家で、幼少期に親の厳しい教育の元泣く泣く楽器の練習をしていたという話はよく聞きます。その一方で、数多くの人々がこういった教育のせいで楽器が、場合によっては親までも嫌いになってしまったというのも想像に難くありません。 ただ一つ言えることは、成功した彼らはどこかのタイミングでモチベーション2.0からモチベーション3.0に移行したに違いないという事です。現在の彼らが、統制させて仕方なく音楽を奏でているとは思いません。

 

 

 ニンジンを追いかける馬ではなく、野原を無邪気に駆け回る犬のような生き方をしたいです。