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確率思考の戦略論(角川書店)

 先日、マーケティングの授業について、「正解があって無いようなもので腑に落ちない」という感じの事を書きました。ケース課題で新製品の売り上げ予測が求められた時にも、ケースの中で与えられた数字を基に計算はするのですが、そもそもその数字を裏付けるような根拠については明示されていないことが多く、本当にこの数字に従ってマーケティング戦略を構築してよいのか?と思うこともしばしばです。

 

  また、私の肌感覚ですが、マーケティングの戦略について考える際はどうも感覚的な部分に頼る人が多いようです。先日チームで、クラフトビールを製造する小さな会社がライトビールの分野に進出するべきかどうか、またどのようなマーケティング戦略を取るべきか考えよという課題に取り組んだのですが、その際も「なんとなく良さそう」な戦略を取ろうとするチームメイトが複数いました。

 

 ライトビール分野に進出したとして、どの程度シェアが取れるのか、既存のクラフトビールに与える影響はどれほどなのか、財務的に問題は無いのかといったところが戦略決定の肝になると思うのですが、エクセルを用いて感度分析をしてみても、「ちょっと自分はファイナンスとかやった事ないからこの表が何を言っているのか分からないんだけど、こんな感じでいいんじゃないか?」と、当然のように言う奴がいてちょっとびっくりしてしまいました。

 

 私はマーケティングの仕事に従事したことが無いので分かりませんが、もしかして現場でもこんな形で意思決定されているのかと思うと、残念というか恐ろしいなと感じます。

 

 マーケティングにせよなんにせよ、やはりできるだけ客観的な根拠に基づいて意思決定がなされるべきだと思うのです。

 

 

 今回紹介する本は、USJの業績を劇的に改善した2人の共著となっています。まだ日本にいたころ、NHKの「プロフェショナルー仕事の流儀」で著者の一人(森岡氏の方)がハリーポッターの成功について取り上げられていて、偶然それを観ていたので気になって購入しました。私がこの本について良いなと思ったのは、マーケティングをできるだけ科学に近い形で考えようとしているところです。

 

 例えば、森岡氏は売り上げを伸ばすためには、

 

1.自社ブランドのプレファレンスを高める

2.認知を高める

3.配荷率を高める

 

 の3つしかないとして、中でもプレファレンスを高める事が重要だと述べています。プレファレンスとは消費者のブランドに対する相対的な好意度のことです。消費者が自社ブランドを選択する確率を、

 

 という二項モデルを使って、予想しようとします。rは一定期間中にブランドを購入する回数です。Mは選ばれる確率そのもので、数学的には自社ブランドをすべての消費者が選択した合計数を消費者の頭数で割ったものです。Kは消費者の購入確率がどのような文武になるかを決める指標ですが、Kは消費者のプリファレンスによって決まるので、さほど気にするべきものでは無いと述べられています。

 

 結果的に企業がコントロールできるのは消費者のプリファレンスなので、そこに集中して資源を投入することになるのです。実際には必要な売り上げ等の目標を設定したうえで、その目標達成に必要なプリファレンス等の指標を逆算する形で用いられるみたいですね。

 

 

 もう一人の著者である今西氏も、独自の方法で売り上げの予想をしようと試みています。彼は、需要予測において重要なのは「大きく外さない事」と述べています。というのも、大きく下振れするともちろん赤字になりますし、逆に大きく上振れしても品切れとなり売り上げの機会を失ってしまうからです。小さなブレに抑える事ができれば、認知率や配荷率を調整することで、目標達成を図ることが可能です。

 

 実際にハリーポッターのアトラクションを作るに際して、映画の観客動員数を基にした需要予測、シリーズものの映画の観客動員数増加率を基にした需要予測、テレビCMを使ったコンセプトテストによる需要予測など、複数の方法を用いており、具体的な方法が数字を用いて説明してあって興味深かったです。

 

 

 森岡氏はマーケティングをアートからサイエンスに近づけたいと語っていて、本の随所に数字に対する拘りが見て取れます。特に数学が好きでない人でも、本の内容は理解できますので、読んでみると面白いと思います。

 

 

 

 あと、マーケティングとは関係ないですが、本の中でサイコパスに関する記述があって、森岡氏のサイコパスに対する考え方が興味深かったです。

 サイコパスというと、情緒が無い、罪悪感を感じない、良心が無いなどとネガティブなイメージが先走ります。しかし、彼は

 

感情的 葛藤 や 人間関係 の しがらみ などに 迷う こと なく、 目的 に対して 純粋 に 正しい 行動 を 取れる 性質 の こと

 

 と捉えています。ある調査によると、CEO、外科医、弁護士等にはサイコパス性が高い人が置く身まれるとの事です。辛いけれども正しい意思決定をする必要がある時、感情は邪魔になりかねず、感情を排除して判断できるサイコパス性が高い人物は有利であると考える事が出来ます。

 

 これをふまえて森岡氏は、アングロサクソン系の組織が優勢に人類の中で突出してきたことは、彼らが感情を排除した合理的な意思決定が出来る事と無関係でないと予想しています。

 

 この記述を読んだ時、私がまだ中学生くらいの頃、「冬季スポーツのスキージャンプにおいて日本は非常に強かったが、この状況を打開しようとして欧米人を中心とする委員会が板の長さなどに関するルールを変更し、その結果北欧の選手が表彰台を独占するようになった」というニュースを見たことを思い出しました。安易にこれをサイコパス性と繋げるのは良くないと思いますが、一つの仮説としてありうるなと思った次第です。

 

 これを発展させて考えると、与えられたルールの中で戦おうとする日本人と、勝つためにはルールを変える事も厭わない海外の人という説も違った視点から考える事ができると思いました。こういった違いが、起業に対する考え方の違いにも表れるのかな、と。

 

 

確率思考の戦略論  USJでも実証された数学マーケティングの力

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