田舎者×MBA=?? 田舎の銀行員日記

いつか誰かの役に立つかも、と思い英語学習やMBA受験等の記録を残しています。

読書感想 大庫直樹著 『地域金融のあしたの探り方』 金融財政事情研究会

会社の業務から離れて間もなく1,000日になります。

 

業務の細かいところは殆ど忘れていますが、金融機関についての見識は確実に広がっていると感じます。

 

勿論自分が属する産業だからというのはあると思いますが、仕事からある程度距離を置いているからこそ見えるものもあるのではないかと感じます。

 

今日は金融に関する本を紹介します。

 地域金融のあしたの探り方 -人口減少下での地方創生と地域金融システムのリ・デザインに向けて

率直に言って、これまで読んだ金融関連の本で一番示唆が多いものだったと思います。

 

自分が従事する地域金融業の現状を、ここまで数字を使って客観的に分析した本はこれまで読んだことがありません。数字に裏打ちされた分析は、やはり説得力があるものです。

 

本書の中で地域経済の発展に向けての戦略について語られている章があります。地域金融機関は地域経済と大きな関りがあるわけですが、地方自治体の役割も大きいです。

 

地域金融に従事する方はもちろん、地方自治体で働く方も絶対に読んでおくべき本です。人口減少が確実視されている国内の大多数の地域において、どうやって住民の職と生活を維持していくのか、これを考えなくてはいけません。金融機関と地方自治体の抱える課題は、重なる点が多いはずです。

 

 

本の内容

元々コンサルティングファームで働いていた人が金融雑誌に連載していたものを、大幅に加筆して出版したのが本書です。

 

地域金融機関の現状分析を踏まえたうえで、非常に厳しい経営環境の中で今後どうやって利益を確保していくか、その戦略を地方銀行と信用金庫それぞれに向けていくつか提案しています。

 

本書の特徴は、何といっても定量分析に重点が置かれている事です。政府が発表したデータを基に、基本的な統計の手法を用いて金融機関の経営状態の将来予測や地域経済と域内人口の関係などを分析しています。

 

データ自体は誰にでも手に入るものですので、極論を言えば本書の中の分析は誰にでも出来る事です。誰にでも出来るはずのものでありながら、(私が知る限りにおいては)誰もここまで踏み込んだ分析を行ってこなかった、という点が興味深いです。

 

データへのアクセスが容易になった事で情報の価値が下がっていると言われますが、この本を読むと「確かにデータを入手する事自体に価値は無いかも知れないが、そのデータをどのように咀嚼するか、この点にはまだまだ大きな価値が眠っている」と思わされます。

 

本の感想

今後しばらくは人口減少の影響よりも、金利低下の影響の方が重大な問題

 

本書によると、人口減少によって地域の金融市場は縮小していくが、

個人金融資産 や、 その 主要 な 部分 で ある 預金 残高 は、 人口 が 多少 減少 し 始め ても 金融資産 を 多く もつ 高齢者 の 人口 は 増え て いく ので、 当面 は 大きな 減少 には なら なかっ た。 貸 出 残高 について は、 生産年齢人口 が 総 人口 よりも 先行 し て 減少 し て いく ので、 それなり の影響 を 与える こと が わかっ た。 それでも 2014 年 から 2025 年 にかけて で あれ ば、 全国 平均 で 1 割 の 減少 に とどまる。

として、今後しばらくは影響は限定的であるとしています。

 

では、金利の低下がどれだけ地域金融機関に影響を与えるのかという事になるわけです。

 

銀行の利益の多くは資金利鞘によるものです。ざっくりと、金利鞘=貸出金利ー調達金利と思ってもらえればいいかと思います。

 

貸出金利とは銀行がお客さんにお金を貸し出したときにお客さんからもらう利息の率の事、調達金利は銀行がお客さんに貸し出すためのお金、これを確保するために仕入れてくるお金に対して(個人からの預金もそうです。定期預金の利息などが調達金利になります。雀の涙ほどもありませんが)。

 

近年は貸出金利が大きく低下して資金利鞘も低下、貸し出しによる利息が生み出す利益は減少しています。この減少分をカバーするために金融商品の販売による手数料収入やマッチングビジネスなどに活路を求めているわけですが、大きな成果を上げているところはまだありません。

 

本の中では、資金利鞘の計算に新規約定貸出金利を使っています。新規約定金利というのは最近契約が結ばれた融資の金利の事です。

 

銀行が貰う利息には、何年も前に契約されたまだ金利が高かったころのものも含まれます。銀行全体としてみれば、金利が高かったころの貯金があるので利益が出ていますが、今後も貸出金利が上昇せずに資金利鞘が拡大しないとすれば、数年内に赤字になるところも出てきます。筆者によれば、2~5年もすればそのような銀行が出てくるのではないかという事でした。

 

  大局 的 に みれ ば、 預貸 ビジネス という 事業 モデル は、 現時点 で 採算 割れ し て いる という 意味 で 壊れ て しまっ て いる。 資金 利鞘 が 個別 の 地域 銀行 で 違う ので、 いくつ かの 銀行 は、 例外 的 に 預貸 ビジネス は 壊れ て い ない かも しれ ない。 しかし、 大多数 は 壊れ て いる。 中核 事業 で ある はず の 預貸 ビジネス の モデル が 壊れ て いる こと を もっ て、 伝統 的 な 地域 銀行 モデル は 壊れ て いる という こと が できる かも しれ ない。

 

ITの進歩によって今後どんどん費用が削減できるかもしれません。劇的に削減できるのであれば銀行の利益は改善するでしょうが、それは同時に従事する人員の削減という可能性もはらんでいます。

 

筆者は経費削減には限界があり、可能性として残されているのは合併による効率化だとしていました。最近金融庁公正取引委員会のやり取りがニュースになりましたが、独禁法に触れるか否かで両者の意見がぶつかり合う形になっています。

 

収益機会が中々見いだせない中、残された合併という方法も規制によりすんなり事が運ばない。IT活用による経費の削減は、雇用者数の減少にもつながりかねない。

 

こう考えると、金融機関が置かれた立場は非常に厳しいものだと分かります。

 

 

 

今の厳しい経営環境による淘汰に加えて、技術の進歩により今の金融機関は大きく形を変え、伝統的な金融機関に従事する人間の数はガクッと減る、これは避けようが無いことです。ただ、以前にも書いたことがありますが、この流れ自体は悪いものでは無いと思っています。

 

社会から必要とされなくなったものが消えていくのは当然の流れです。不要なものを残し続けるのは社会全体にとって不利益になりかねません。自分たちがより便利な金融サービスを利用できるようになる、自分たちの生活がより快適になる、これ自体は素晴らしい事です。

 

必要とされなくなる仕事がある一方で、これからの時代に新たに必要とされる仕事が出てくるはずです。だから、別に悲観せずに新しい流れに乗れるように準備しておけばよい、そう思います。

 

 

 

なお、金融機関のデータについては下記のサイトで様々なものが入手可能です。エクセルデータとしてダウンロードできるので、個人で分析する事も可能ですね。

日本銀行時系列統計データ検索サイト